コンビニの店員でいるときのみ世界の歯車になれるという古倉恵子と、婚活目的でやってきた新入りのバイト白羽が出会い・・・というストーリーです。
とても読みやすくて、友人の結婚式に向かう新幹線の中で30分くらいで読みました。
文章自体が読みやすいというのもあるのですが、話の中にぐいぐいと引き込まれるような力を感じました。
でも、さらっと読める話ではありません。
衝撃というか、もやもやというか、気持ち悪さというか・・・
私の感情は見事に掻き乱されました。
この小説の登場人物に、まったく共感できない、理解できないという人にとっては単なるホラーかもしれません。
私は恵子に共感できる部分もありました。
世間でいう「普通」を「普通」だと思えない、また何が「普通」なのかを掴むのも苦手だという部分です。
私も悪気なく世間の常識を飛び超えて、ときには他者を傷つけてきました。
「そんなこと言わなくてもわかるだろ!」
「あれは嫌味なんだよ!」
「遠回しに言ってるのがわからないのか!」
何度叱られたでしょうか。
「本当にわからないんです」と答えて、何度も相手の悲しい顔を見てきました。
でも本当にわからないんですよ。
世間の「普通」だとか「常識」だとかは意外と教えてもらえないものです。
そもそも気にもしていなかったことですから、教えてもらえさえすれば従うことに抵抗はありません。
でも本心かどうかって見破られるんですよね。
「あなた空っぽだね」と言われて「そのとおり。どうでもいいもん」と心の中で思うことがあります。
でも、目的を達するために手段を選ばないという点は共感できません。
恵子が取ろうとする手段は例えば暴力など、しばしば法を犯すものです。
自分にとって合理的と思える判断だとしても、私だったら法の範疇でおこなおうとします。
これだけマニュアルに沿って行動する恵子が、法律を破るのは気にしないというのはよくわからないです。
いや、法律で決まっているからやらないとかいう以前に、暴力なんて倫理的に問題があるじゃないかと思われるでしょう。
でもしてはいけないことが、なぜしてはいけないことなのか、突き詰めて考えると難しいものなのです。
例えば「なぜ人を殺してはいけないのか?」という問いは、今のところfinalventさんのこのブログ記事にでてくる半村良の回答が一番納得できます。
私はむしろ恵子より白羽に共感できる気もします。
口だけ達者で、楽をしたくて、空っぽで、人より優位に立ちたくて、人の評判を気にする・・・なんて奴だ!笑
恵子も人の評判を気にはしていますが、それは人を困らせたり悲しませたりしないためのもので、自分が生き辛いとか評価されたいとかいうわけではないですから。
この本のテーマは、登場人物のキャラが立っている割に意外と難しいです。
普通って何だろう?と考えさせられます。
でもそこに何か訴えたい主張があるのかどうかはわかりません。
恵子は結局コンビニを取りますが、本人が幸せならそれでいいじゃないかと思います。
本来それでいいはずのところを、それでいいじゃないかと思えないところが問われているのかもしれません。
「みんなちがって、みんないい」と思いつつも、幸せを型にはめて考えてしまうことはよくあると思います。
一つだけ確かなことは、結婚式に出席する直前に読むのはおすすめしませんということです。
入り口で式場の方が心配してくださいましたが、余興をするから緊張していたのではなくて本書に衝撃を受けていたのです(笑)